プロローグ

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プロローグ

 ザーッと勢いよく落ちる雨粒が、さくら保育園の運動場の泥をはね上げる。  接近中の台風の影響で、その日は朝からずっと激しい雨が続いていた。  急きょ〝午前中閉園〟の知らせを受けた保護者たちが、続々と園児を迎えにくる。 ひとり。またひとり。  そうして最後に、良太が残った。  ぶらんこ、ジャングルジム、鉄棒、灰色に染められた遊具たちを、良太は不思議な気持ちで見つめていた。知らない世界みたいだ……。どろどろの、水たまりの世界。  金木犀のしめったにおいがした。  ふいに、良太は顔をあげた。  門のところに、チェックのロングスカートが見えた。続いて赤い傘の向こうに、腰までのびる茶色い髪。 「ママ!」  良太は傘もささずに飛び出して、いっしょに待ってくれていた先生を驚かせた。 「良太くん、ぬれちゃうよ」  先生がそう言い終わらないうちに、良太はすでにママの傘にすっぽり守られている。  先生はじっとママを見た。雨が邪魔で目をほそめる。  ママが先生に向かってゆっくり頭を下げた。ほっとする。 (お迎え来れたんだ。よかった……)  先生も頭をさげて、笑顔で手を振った。 「ばいばい、良太くん! またね!」  先生が良太を見た、これが最後になった。
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