17人が本棚に入れています
本棚に追加
一夜限りの相手探し
チンとワイングラスが鳴り会場が沸き立った。パーティ会場を見渡せば、今回もかなりの実業家や有名人が集まっている。私はいつものように挨拶を交わしながら品定めをしていた。仕事の取引相手ではなく夜の相手を探し求めて……。
「んっ？」
誰かの熱い視線を感じ振り返った。視線の元を辿れば、そこは窓際。赤い豪華なカーテンを背景にし、自前の白スーツを目立たせている人物がいた。さらに手入れされた金色の髪を耳にかけ襟足を伸ばしている。見た感じ外国人だろうか？
そして、ワイングラスを片手に持ち、挨拶することなくもう片方の手をポッケに入れて立っている。その風貌は情報交換のために練り歩く人達と対照的で、彼はこの場で唯一浮いている存在。そんな彼に目が釘付けになり、よそ見をしながら歩いていたせいで、胸を大きくさらけ出した女性にぶつかってしまった。
「きゃあ……！」
「失礼、すぐに新しいドレスを」
片手を挙げて近くに控えていた秘書を呼ぶ。すぐさま秘書が現れ女性を連れてパーティー会場の外へと出たが、私はアフターケアをしなかった。その状況を見ていた彼が私に近づいてくる。
「巨乳は好みじゃないんだ？」
「はっ……君、わざと私にぶつからせたな」
彼は隠す気が無いのかクスリと笑い、持っていた白ワインを一気に飲み干した。そして煽情的に唇を潤ませながら私に話しかけてくる。
「君はいつもダレを探しているの？」
飲み干したワイングラスを通りかかったスタッフが持っていたトレイに置き、さらに1歩私に近づいた。
「何のことだ？」
『いつも』という言葉が胸の中で引っかかる。彼のような美貌な人物を見たのが初めてだった。
「とぼけないでよ、ボクは知っているよ。君はいつもダレかと一緒に帰る」
私の本性を見破ったかのように、彼は美しく笑った。
「君は初めて見る顔だな。なぜ、私のことを知っている？」
「こっちの世界で君は有名さ」
「……そういうことか」
どれだけ体裁を整えていても、人の口に戸は立てられぬ。どこからか噂を聞いて、私目当てでこのパーティー会場に来たということか。だが、このパーティー会場に参加できるということはそれなりの実績を持っていてかつ、素性が割れている。後で何かあっても大丈夫だろう。
「なら、話が早い。君は猫が好きかい？」
「好きだよ、ヒロフミ」
名前を呼ばれて驚いた。そこまで情報が漏れているのか……悔しいが、しばらくパーティーへの参加を見送ることにしよう。
「すまないが、君の名前を知りたい」
「ボクの名前はアルバード。周りからアルと呼ばれているが、ヒロフミの好きに呼んでくれ」
目的は一致した。後は最高層のスウィートルームへ移動するだけ。飲みかけのワイングラスをスタッフに返そうとすれば止められた。
「ボクも飲んだのだから、ヒロフミも飲んでくれ」
「わかった」
ワイングラスを傾け一気飲みをし、トレーに置いてパーティー会場を後にした。
最初のコメントを投稿しよう！