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これだから刺激的な夜はやめられない
アルバートと熱情的な一夜を過ごして数日後、突然連絡が取れなくなった。一夜限りの相手だとよくあることだと気にも止めなかった。ただ、あの激しい夜をもう二度と味わえないと思えば惜しい気はするけれど。
「社長! 大変です!! 来月発表予定のプロジェクトが無名の会社に発表されました!!!」
秘書が血相を変えて飛び込んできた。本来ならばノックがなければマナー違反だが、内容が内容だ。プロジェクトが盗まれたなんて前代未聞。信頼は底落ちだ。
「なんだと?! わが社のセキュリティは万全だったはずだ!!」
セキュリティには自信があった。なにせ、一度も破られたことがない。我が社自慢のセキュリティシステムだった。
「ええ、詳しいことはまだ判明していないのですが、無理やりこじ開けられた形跡は無くパスワード解除によるものです。一秒もかからない内に盗まれたなんて、笑い話もいいとこですよ! それにしても……社長、最近パスワードを変更なさったのに全く、どうして見破られたのか……」
秘書が首を傾げる。その様子を見て心に何かが引っかかる。もしかして……もしかしたら変更したパスワードがまずかったのか……もしれない。
「社長? どうかなさいましたか?? 顔色が悪い……もしかして心当たりがあるのですか?!」
「い、いや……気のせいかもしれない」
私は首を振って否定した。あの子がそんな悪いことをするはずがないと信じていたからだ。なにせ、身体の相性が悪かったのならばともかく相性がよかったのだから。
「まさか……! 社長、変更したパスワード教えて下さい」
秘書はジリジリと詰め寄って私を決して逃がさない。秘書の強い意志に負けた私は白状することにした。
「あ、Albert……」
「アルバード? 誰で……ああああ!! パーティー会場でホテル連れ込んだ相手ですか?! 全く! 何やってるんですか!! 前にも言いましたよね? お気に入りの名前をパスワードにするなと! 散々!!」
秘書は顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。いつも冷静で綺麗な顔がグチャグチャに歪んでしまっている。
「いや、だってアルがそんな裏切るような子に見えなかったんだよ……」
「そりゃ見え見えだったら誰も引っかからんでしょうが! 全く!!」
弱肉強食なシビアな世界。また今日も崖から突き落とされ、地に落ちた。そうだ、明日には新しい事業を始めよう。いつか彼に会えると信じて……
「社長?! 聞いてます?? またくだらないこと考えてないですよね?!」
「いいや、絶望しているところだよ」
わざとらしく大袈裟に溜息を吐きながら、口元を手で隠す。秘書にバレない程度に笑っていた。騙したり、騙されたり、これだから刺激的な夜はやめられない。
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