私を待っていたもの

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 私は、最初に引っかかっていた違和感の原因を理解した。  そもそも、こういう流れ作業の仕事は、人と接するのが苦手な人が多い。  ところが、彼女は、ハキハキと返事をするだけでなく、わからないところは積極的に聞き、答えてあげれば感謝の意を表す。  これほどの対人能力を持つ人はこの工場にはいないのではないだろうか。むしろ、接客業に就くことをお勧めしたいくらいだ。そう思った。  明らかに、今までの新入りと違う。 「じゃあ、早速、私とペアで作業をお願いしますね。」 「はい、よろしくお願いします。」  私の言葉に気持ちのいい返事が返ってくる。  彼女は、教えた通りにテキパキと仕事をこなす。この仕事は、作業中に話をすることはない。みんな機械のように動いている。彼女は、時折(ときおり)あくびをしたり、眠そうにする以外は順調だった。 ジリリリリ 昼休憩の合図だった。 「お昼ごはんにしましょう。皆さん、お弁当なのですが、お弁当は、お持ちですか?」 「はい。工場長さんからお聞きして、持ってきてます。」  握り拳を見せ、にっこりと笑って返事をするところを見ると自分の手作り弁当なのかなと笑顔を返す。
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