私を待っていたもの

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 私も、定職につけなかった頃に経験がある。ご飯に塩を振って食べたり、野菜ならもやし、タンパク質を取るのは納豆。肉なんて買えない。米も食べられない時には、パン屋に行って…… 「わあ、桐生さんも自分で作ったんですか?」  私の弁当を覗き込み、キラキラとした目をしている。  業務用のプラ使い捨て容器に入った弁当で、目の前に透明な蓋もひっくり返っている。誰がどう見ても買ってきたものとわかるはずだった。あえて話を膨らませるためのコミニュケーション能力だろう。 「これは、安いお店で買ったもの。とんかつ弁当は、とんかつとご飯だけ、ハンバーグ弁当は、ハンバーグとご飯だけしか入ってないからめちゃくちゃ安いんだ。」 「お買い得なんですね。」  そう言う彼女は、満足そうに顔をほころばせる。  安い、お得、お買い得、その言葉を聞くだけで幸せな気分になれたあの頃の私と同じだ。 「私は、独身で一人暮らし。今まで結婚したこともない。」 「私も独身で一人暮らしのアラサーです。私も独身一筋(ひとすじ)ですよ。」  あまりプライベートなことを聞くのは失礼かと思い、自己紹介のつもりだったが、隠す様子もなく素直に答えてくれた。
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