私を待っていたもの

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「桐生さん、私、早速、パン屋さんに行ってみます。」  笑顔で小首を傾げる小林さんは、やっぱり可愛い。  こんな子にこんなふうに接してもらったら、つい、自分に気があるのではないかと思ってしまう。勘違いしそうになる自分をいつも必死で抑えている。  お前には、女性と結婚できない秘密があるだろうと自分に言い聞かせた。  私は、一度きりではなく、貧乏生活について、時々、ワンポイントアドバイスをした。  その度に、彼女は、目をキラキラさせていた。  小林さんは、苦労しているのにいつも笑顔で周囲に接している。愚痴をこぼすのを聞いたことがなかった。健気な姿に惹かれていく自分がいた。  そんなある日、昼休憩で手袋を取った時、小林さんの左手に青あざができているのが見えた。左手の甲から手首へと広がる。あとは服の(そで)に隠れていてどこまで広がっているのかわからない。  私の細い目は、その瞬間、大きく開いたのを自覚した。彼女はそれを見て気まずそうにへへと笑った。 「どうしたの? 青あざが見えたよ。よかったら話してくれるかな。」  できるだけ優しく見えるように口の端を上げ笑顔を作るが、自然と顔がゆがむ。 「桐生さん、笑顔が不自然ですよ。」
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