私を待っていたもの

9/12

81人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
 私は優しくなんかない。目的のためなら、なんだってする男だと苦笑いをする。 「ありがとう。優しいって思ってくれて。  小林さんを見ていると、何か、昔の自分を見ているみたいで、放っておけなかった。  借金、そんなに多いのか?」  彼女は、また、ため息をつき、遠くを見つめた。 「普通の家に生まれて、普通に育って、普通に都会に出て、普通に就職した。  あの頃は、普通に恋愛できてたと思ってたんだけどなぁ。  男に騙されて、ためたお金、全部取られて、借金背負わされて捨てられた。闇金だから、自己破産とか通用しないの。  実家に行って何されるかわからない。  みんなに迷惑がかかるから、なんとか返さないといけないの。」  首を項垂(うなだ)れる彼女を見て、「そっか」と答えた。  普通に笑顔で通学する女子高生の小林さんを想像して、涙が頬を伝う。  得体の知れないドス黒い感情が湧いて、握り拳(にぎりこぶし)に力が入る。  目の前にその男がいたら、いきなり殴りかかってしまいそうだ。    涙が後から後から湧き出てくる。 「え、ちょっと、桐生さん、感情移入しすぎ! ほんと、優しいんだから。  私ね、ここに勤めるまでは、朝の10時から翌朝の3時まで毎日、鬼出勤してたんだ。」
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加