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私は優しくなんかない。目的のためなら、なんだってする男だと苦笑いをする。
「ありがとう。優しいって思ってくれて。
小林さんを見ていると、何か、昔の自分を見ているみたいで、放っておけなかった。
借金、そんなに多いのか?」
彼女は、また、ため息をつき、遠くを見つめた。
「普通の家に生まれて、普通に育って、普通に都会に出て、普通に就職した。
あの頃は、普通に恋愛できてたと思ってたんだけどなぁ。
男に騙されて、ためたお金、全部取られて、借金背負わされて捨てられた。闇金だから、自己破産とか通用しないの。
実家に行って何されるかわからない。
みんなに迷惑がかかるから、なんとか返さないといけないの。」
首を項垂れる彼女を見て、「そっか」と答えた。
普通に笑顔で通学する女子高生の小林さんを想像して、涙が頬を伝う。
得体の知れないドス黒い感情が湧いて、握り拳に力が入る。
目の前にその男がいたら、いきなり殴りかかってしまいそうだ。
涙が後から後から湧き出てくる。
「え、ちょっと、桐生さん、感情移入しすぎ! ほんと、優しいんだから。
私ね、ここに勤めるまでは、朝の10時から翌朝の3時まで毎日、鬼出勤してたんだ。」
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