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「ゆっくりしていくといいよ」と穏やかに言い、手に持つ包みに視線をやってから一呼吸の沈黙、そして神職さんが聞いてきた。
「あのひと、元気かい?」
すぐに上司のことを聞かれていると理解する。時折、聞かれるのだ。
「元気も元気ですよー。今日も私を顎で使ってますからね」
包みを指してげんなりする私に小さく笑って彼は「お疲れ様」と労った。
と、俄に外が騒がしくなる。
首を伸ばして見れば、浅葱色の袴をはいた男性が数人、玉砂利をざくざく踏み締め社務所へ歩いてくる所だった。
近付いてくるにつれて、彼らが険しい表情を浮かべているのがわかってくる。
「おお、どうだった」「駄目ですね…」「だいぶ上の方にも行ってみたんですけど…」「足を滑らせてなきゃいいんだがなぁ…」話し込む声が聞こえてくる。長閑だった社務所内がぴりっと緊迫したように感じられ、隣を仰ぎ見た。
「どうかしたんですか?」
「ああ、いなくなっちゃったおばあさんがいらしてね…」
聞けば、近所に住むおばあちゃんが、昨日の昼、散歩に出掛けたきり帰って来ないのだという。警察の手を借りてはいるが、この神社を散歩することも多いため、神社でも若衆で捜しているそうだ。
「それは心配ですね…」
「山の方は坂も多いし、舗装されていない山道も多いから」
「巫女さんも…」と言いかけ、神職さんがふつりと言葉を切る。不思議に思って首を傾げる私に思い直したように言い直した。
「いや…きみは大丈夫だったね」
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