お迎え

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「なんで…っ! 坂が! あるのか…!」 息を切らしながら悪態をついた。 林道を横に逸れて獣道を通るまではいい。スーツのスラックスとパンプスとストッキングは端から捨てている。砂塵にまみれようが問題はない。この仕事に就いてからというもの、これらは使い捨てマスクばりに面子が変わる。まさに獅子奮迅の働き。いや違う今はそんな称賛を送っている場合じゃない。 平坦な獣道がいつからか傾斜を描き出した。神社の御神体たる霊山ならともかく、そこから逸れたいつもの林にこんな急勾配はなかったはずだ。 イヤな予感がして、ぜえはあ乱れる呼吸を宥めにかかる。鼓膜を叩いていた私の喧しい喘鳴が止めば、如実に変化に気付けた。 ----ひとの喧騒がしない。 「あああ…」 やっちまったぁ。頭を抱えた。また“こちら”に迷いこんでしまったらしい。うああと意味を成さない呻きをあげながら手を仰ぐ。頭上には晴れ渡る空。飛んでいく野鳥…あれ実在してるのかな。 果たして還れるのか? 流石に山林の中で行方不明とか嫌すぎるぞ。 こちとらからすを探しているのに。 「…なに? 水の音…?」 水の流れる音が聞こえた気がして仰け反っていた頭を戻す。耳をそばだてる。 間違いない。近くに沢でもあるらしい。 その中に微かにからすのヘタクソな鳴き声も聞こえてきて耳を疑う。もう一度慎重に耳を澄ませて確信を得た。聞き間違いではない。 「まじか…」 まさか“こちら”にいるとは。 呆けていたのは僅かな時間だ。私は鳴き声と水の流れる音のする方へ向かった。 獣が通る道はあっても拓かれていない山道を通り、生い茂って視界を塞ぐ草木をガサガサと大きな音を立てて掻き分けた、 途端、急に視界が開けた。
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