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林道を抜けた先には、一本の川が流れていた。
川辺は砂利が広がっている。
細かな砂利が続く中に巨大な石が横たわっている。
そこに腰掛けるひとりのおばあさんを見付け、目を見張った。
昨日の昼から行方が知れないおばあさん。そのひとが着ていた服や持ち物が、神社で念のため聞いていたものと合致している。
「だ、大丈夫ですか…!?」
声を掛けながら慌てて駆け寄る。
「あら…? こんにちは」
対して走り寄る私に気付いたおばあちゃんはゆったりと首を傾げた。
「こ、こんにちは…ん? あれ?」
のんびりとしたその様子に却って困惑する。
一晩経っているはずなのに、おばあちゃんは草臥れたようにも、憔悴しているようでもない。
もしかして人違いだろうか。
カアカア。鳴き声がして、我に返る。
私たちの前にからすがいた。
「きみ、ここにいたんだ…」
ちょんちょんと横に跳ねて回っている。忙しなく跳ねながら、カアカアと鳴く。黒い目が私を見る。じっとこちらを見て訴えるかのように更に鳴いた。
その様は何処か必死さを感じさせる。
おばあちゃんがからすを見てふふと笑った。
「そのからすさん、ずっとわたしの側にいるのよ。人懐っこいのねえ」
「おばあちゃんはどうしてここにいるんですか?」
「散歩してたんだけど疲れちゃってねえ、だいぶ奥の方まで来たみたいだからここで少し休憩してたの」
なおも鳴くからすを見遣り、今日は何日かと聞いた。
おばあちゃんは不思議そうにしながら、私の問いに答えてくれた。
----昨日の日付を。
「今、何時かな? お昼頃に出てきたんだけど、もうそろそろ帰らないと夕方になっちゃいそうだね」
その手を取り言う。
「一緒にかえりましょう。私もかえる所だったんです」
大人が大勢で捜しても見付からないわけだ。きっと、どんなに捜してもずっと見付からなかっただろう。
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