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かえることを察したからすが飛び立つ。直ぐに降り立って、私たちを振り返ってきた。カアッと強く鳴く。早く帰ろう。そう言っているかのように。
手を引き、おばあちゃんの脚が取られないよう気を付けて歩く。
頭上の枝には、見守るようにしてからすが見ている。私たちがからすに追い付けば、また飛び立ち、少し先の枝に留まってへたっぴに鳴いた。
あいつについていけば還れるだろう。妙な確信があった。
「そういえば、わたしがうんと小さかった頃にもこの辺りで迷ってしまったことがあってねぇ…」
道中、思い出したかのようにおばあちゃんが呟いた。
懐かしむように、笑みを滲ませて続ける。
「帰り道がわからなくて闇雲に歩いていたら、大きなお屋敷があったの。わたしが泣いている声に気付いてくれたのね、お屋敷からそれは綺麗な女のひとが出てきて、大丈夫? って、声をかけてくれたのよ。道に迷ったことを話したら、怖かったねって頭を撫でてくれて、こうやってあなたと同じように手を引いて林の入り口まで連れて行ってくれたわ」
のんびりとしたおばあちゃんの話を聴いている間に、見慣れた景色になっていることに気付く。還ってくるときはいつも突然なのだ。
兎に角、無事に戻って来られてよかった。頭上のからすを見上げ、ありがとうと口パクした。
いよいよ林の入り口が見えてきた。
鳥居の下に来て「ここを真っ直ぐ行けば神社に出ますよ」と言い、おばあちゃんの手を離す。
「どうもご親切にありがとう。わたしの娘がね、商店街の向こうの大通りの方で和菓子を作っているの。よかったらあなたもまた来てね」
そう言って神社の方へ歩いていくおばあちゃんに手を振る。
その丸い背中が見えなくなってから、ふぅと一息吐く。腰に両手をあて、しばらく瞑想する。
思い返すのは、おばあちゃんが話してくれた子ども時代の昔話だ。
林。
迷った先。
大きな屋敷。
「いやいや…まさかな」
心当たりが浮かび上がる前に私は頭を振った。
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