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食事を済ませ、アイス珈琲をお供に適当に目の前にあったエドガー・アラン・ポーの黒猫という本を読んでいた。
この穏やかな喫茶店に対して、なかなかシリアスで少し怖いと思ってしまう内容だったが、いつの間にか夢中になっていたらしい。
元々あまり本を読み慣れていない僕は、文章を読んでは都度そのシーンを想像し、様々な感情に震えていた。きっと傍から見たら百面相していたような気がする。
そのせいで、この短い小説にもかなりの時間を有してしまったらしい。顔を上げた時には、太陽が海に傾き始めていた。
「ごちそうさまでした。お料理もとても美味しかったですし、とても良い時間が過ごせました。また来ます」
会計を済ませて店を出ようとした僕は、もう一つ聞き忘れていた事を思い出し、慌てて彼女の方を向き直る。
「僕は滝本裕二と言います。お名前、教えて頂けますか?」
「愛、といいます。またお待ちしておりますね」
愛さんの声は、仕事で鬱々としていた僕の心をも溶かしてしまいそうな温もりを抱いていた。
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