【白衣の死神】

1/1
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

【白衣の死神】

 対象者 No. 1956  名前: 百地架純(ももち・かすみ)  そう書かれた資料ファイルには、ずらりと架純の情報が載っていた。彼女については勿論、彼女が最近悩んでいることや、嬉しかったことなど、プロフィール帳に書くような内容までぎっしりと書かれている。  その情報を睨むように見ながら、真っ白なスーツに身を包んだ青年はコーヒーを飲んだ。夜に飲むコーヒーは格別だと、青年は思う。  パタンっとファイルを閉じると、段ボール箱の中に仕舞って他の資料と一緒に棚に戻した。今日の最後の仕事、これが終われば今日の仕事は全部終わることになる。そうすればまた少しの休息が取れる。  青年は大きな伸びをすると、「んっー」と声を漏らした。周りには皆仕事に出かけている為誰もいない。そろそろ青年も行かねば、と立ち上がると腕をぶらぶらと動かしながら障害物が無いスペースまで移動する。 「さて、行きますか」  アキレス腱をしっかり伸ばしてからそう言うと、青年は大きくジャンプした。刹那、忽然と青年の姿は無くなる。誰もいない廃墟のようなオフィスには、静寂が訪れた。  ここは死神たちが集う場所の一つ。が集う場所だ。  白衣の死神とは、その名の通り真っ白な衣装に身を包んだ死神。青年のような若造もいれば、老人もいる。全員が既に死んでいて、自ら死神になりたいと懇願した者たちばかりだ。そして青年もその一人。  今日も、白衣の死神としての仕事を全うしに行く。今日最後の仕事は、女子高生・百地架純に通告することだ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!