火車

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 ただの診察に訪れた患者だったり、その親族だったり、あるいは医療関係者だったりするかもしれないんですが……救急車ならわかりますよ? でも、普通の車が正面玄関前に駐車してるってちょっと邪魔ですよね? いろいろ考えるとなんだか変なんだ。  その車がいったいなんだったのか? 本当のところはわかりませんよ。でもね、この日からA君、夜眠ると変な夢を見るようになってしまったんです……。  その夢の中の話なんですがね、気がつくとA君、町の中を歩いているんだそうです。  見慣れた自分の住んでいる町で、時刻は夕暮れ時なのか、町全体が夕焼けに赤く染まってるんですね。  ただ、見慣れた景色のはずなのにどこか違和感を感じる……しばらく歩きながら眺めていると、ああそうか。自分以外誰もいないんだ……ということに気づいたんです。  夕暮れの町に、いるのはA君一人だけ。辺りはしーん…と静まり返っているんです。  いつもは道路を行き交っている車も一台もいない……鳥の鳴き声も、風の音も聞こえないんです。 なんだか不気味で、どうにも淋しい感じがするんですね……。  まあ、夢ですから理由なんてないのかもしれませんが、どういうわけか自分一人だけで、その無音の町の中を歩いている……と、遠く道の先に、こっちへ近づいて来る何かが目に映ったんです。  見ていると、どうやら車のようなんですが、他の車はまる走っていない道を、その一台だけがどんどんどんどん、こっちへ向かって近づいてくる……夕陽を受けて、周りの景色同様に車体も赤く染まってるんですね……。 「いや、違う……そうじゃない!」  でも、その車が近づくにつれ、その車体の色が夕陽のせいじゃないことにA君気づいたんです。  その車、夕陽で染まってるんじゃなく、車自体が真っ赤な色をしてるんだ。  しかも、その車にA君、どうにも見憶えがある……そう! その日の夕方、学校帰りに病院で見かけたあの赤い車なんですよ!  びっくりして、その場に立ち止まって眺めている内にも、赤い車はどんどんどんどん、A君の方へと近づいてくる……やがて、ブルウウン…ブルウウウン…! とアクセルを吹かす音も聞こえて来て、どうやらその車、かなりのスピードを出してこっちへ向かって来ているようなんです。
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