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他には何も音のない静かな夕暮れの町に、ブルウン…ブルウウウウン…! とけたたましいエンジン音だけを響かせると、彼の方へ向かって道をまっすぐ突き進んで来る赤い車……。
「おい、ちょっと待てよ? ……これ、俺にぶつかろうとしてないか?」
そんな不安にA君が駆られたその時、すぐ近くまで迫った車の運転席が見えるようになって、そこに座るあの赤い男がニタァっと不気味に笑ってるのがわかったんです。
「うわあぁあっ…!」
咄嗟にA君、慌てて踵を返すと全速力でその場を逃げ出しました。
赤い男は明らかに、彼を跳ね飛ばそうと向かって来てるんですね。
「…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」
どこまでも真っ直ぐなその道を、とにかくA君は息を切らしながら懸命に走る。
たまに振り向いて背後を見ると、あの赤い男はニヤニヤ笑いながらハンドルを握り、ぐんぐん、ぐんぐんスピードを上げながら迫って来てるんですね。
A君も全力疾走で逃げるんですが、そもそも人間と自動車じゃあ勝負になりませんよ。あっという間に追いつかれ、もう今にも後から追突されそうになってしまう……。
そこでA君、このままじゃやられると思うや反射的に脇へ飛び退いたんです。すると、赤い車はそのままのスピードでA君のすぐそばを走り抜けてゆく……とその瞬間、パッと目の前の景色が切り替わり、彼はベッドの上で目を覚ましたそうです。
「…ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
目が覚めても、それが夢だったとは思えないくらい、その情景や恐怖心を鮮明に憶えているし、足にも走った後のような疲労感が残っていて、息も切れているし全身汗びっしょりですよ。
どうにもリアルで、あれが夢だったとは思えないくらいなんですね。
それでも、夕方見た車の印象があまりにも強かったから、きっとあんな悪夢を見たんだろうなあ…と、自分を無理矢理納得させるA君だったんですが……その夢、明くる日の夜もそのまた明くる日の夜も、毎晩々〃、続けて必ず見るようになったんです。
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