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現実に見たのはあの日の一度きりだったんですが、夢の中では毎晩々〃、あの赤い車に追いかけられるんだ。
「…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」
状況は決まっていつも同じで、あの夕陽に染まる誰もいない町を、A君だけが赤い車に追われて全力疾走で逃げてるんです。
ただ少し違うのは、毎回、日を追うごとにどんどん執拗に追いかけてくるようになってるんですね。
最初に見た時は脇へ飛び退いたところで夢から覚めたんですが、その翌日の夜は走り過ぎていった車がUターンして帰ってくると、再びA君を追いかけ始めるんです。
それでもまた追突されそうになる直前で転がるように脇へ飛び退け、なんとか助かったところで目を覚ますんですが、さらにその翌日の夢になると、それでもまた赤い車はUターンして、A君を追いかけ続けるんですね。
そうしてその夢を見るごとに、赤い車はしつこさを増してゆくんです。
たとえ夢の中とはいえ、車に撥ね飛ばされたりなんかしたくはありませんからね。A君も必死で脇道へ駆け込んだり、物陰に隠れたりして逃げるんですが、どんどんどんどん、夢を見る回数を重ねるにつれて、追い詰められてる感じがするんですね。
A君、そこでふと、もしも夢の中であの赤い車に撥ね飛ばされたら、現実の世界でも死んでしまうんじゃないか……と、そんな考えにとらわれたそうです。
もしそうだとしたら、あの赤い車や運転している赤い男はいったいなんなのか?
気になったA君は、もうその頃にはすでに普及していたインターネットで、関連しそうなキーワードを入力して検索してみたんですね。
すると、〝赤い車〟や〝赤い男〟では目ぼしいものに当たらなかったんですが、〝車〟と〝死〟という二つのワードで検索をかけたところ、〝火車〟という妖怪を解説したページが出てきたんです。
それによるとこの〝火車〟っていう妖怪、獄卒――つまり、地獄で亡者を責め苛む鬼が牽く焰に包まれた車のことで、獄卒はその燃え盛る車で亡者を迎えに来るというものらしいんですね。
また、お葬式の際に強い風が吹いて葬列の棺が吹き飛ばされることがあると、これも火車のせいだと云われ、そうやって火車は棺から死者の遺体を取り出して、心臓を抉り取って食べるんだそうです。
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