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この〝火車〟のことを知ってA君、ああ、あの赤い車のことだ……って、直感的に思ったんですね。
赤色ってのもなんだか燃え盛る焰をイメージさせますし、そういわれてみればあの車、黒色をしていないだけで洋式の霊柩車と同じ形にも見えるんですよね。
だとすれば、病院にあの車がいたのも亡くなった入院患者の魂を迎えに来ていたのかもしれない……あの運転してる赤い男は地獄の鬼…いや、いうなれば死神なんですよ。
そして、あの日、偶然にも男と目が合ってしまったので、火車に取り憑かれてしまったんだとしたら……。
そうするとA君、いっそう自分が抱いた不安を確信するようになったんですね。
つまり、夢の中であの車に撥ね飛ばされたら、現実でも本当に命を落としてしまうんだと……。
それでも、相変わらず夜眠ると必ずあの赤い車の夢を見てしまうんだ。しかも、毎晩々〃、徐々に徐々に追い詰められていっているような気がする……。
追突されそうになるのを避けるため、その度にA君、横道へ逸れて逃げていたんですが、気がつけばだんだんだんだんと、次第に細い路地へ入って行ってしまってるんですね。
「…ハァ…ハァ…うわぁっ…!」
その夜の夢でも車に追いつかれたA君は、目に入った家と家の隙間へ慌てて飛び込み、そのままひと一人が通れるような裏路地を抜けて、その向こうの通りへと出たんです。
「…はぁ……なんとか逃げきれたか……」
今通って来た裏路地は狭すぎて、さすがにあの車も追って来れませんからね。遠回りしてくるにしてもしばらく時間がかかります。
とりあえず一安心とA君は安堵の溜息を吐いたんですが、油断は禁物ですからね。今の内にとまた小走りにその路地を進み始めたんです。
「……え? ちょっと待てよ、これ、マズくないか?」
でも、しばらく進んだところで、A君、しまった! と気づいたんだそうです。
ふと見ればその道の先、行き止まりになってるんですよ。
しかも、両脇には長屋のような古い民家が立ち並んでいて、車一台ぐらいしか通れない狭さなんです。
つまり、今、反対の側から赤い車が現れたらもう逃げ場がないわけだ。
さっき逃げてきた家と家の隙間のように、脇へ避けるような場所もない……反対側へ道を引き返すのも、途中で車と鉢合わせする可能性だってある。
おい、どうすりゃいいんだよ……と躊躇している内にも、遠くでブルン…ブルウウン…! とエンジンの音が聞こえるんですね。
「ハッ…!」
と振り向くと、行き止まりじゃない方の側を行った先で、角を曲がってあの赤い車が現れたんですね。
「ひぃぃっ! …ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」
遠回りして現れた車は、シャー…っと物凄いスピードで狭いその路地を突進してくる……このままじゃ確実に跳ね飛ばされて終わりですよ。
でも、他に逃げ場はないんで咄嗟にA君、とにかく行き止まりの方へと全力で走ったんです。
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