火車

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 つまり、今、反対の側から赤い車が現れたらもう逃げ場がないわけだ。  さっき逃げてきた家と家の隙間のように、脇へ避けるような場所もない……反対側へ道を引き返すのも、途中で車と鉢合わせする可能性だってある。  おい、どうすりゃいいんだよ……と躊躇している内にも、遠くでブルン…ブルウウン…! とエンジンの音が聞こえるんですね。 「ハッ…!」  と振り向くと、行き止まりじゃない方の側を行った先で、角を曲がってあの赤い車が現れたんですね。 「ひぃぃっ! …ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」  遠回りして現れた車は、シャー…っと物凄いスピードで狭いその路地を突進してくる……このままじゃ確実に跳ね飛ばされて終わりですよ。  でも、他に逃げ場はないんで咄嗟にA君、とにかく行き止まりの方へと全力で走ったんです。  すると、その行き止まりには小さな祠が一つ立っているんですね。なんだろうと覗き込んでみたA君……。 「ひっ…!」  また全身の血の気が引くような衝撃を覚えて、その恰好のまま固まっちゃったんですね。  なぜかって? その祠の中に入っていたのは首のない石のお地蔵様だったんです。  そんな壊れそうもない頑丈な石造りなのに、首の所でボキリと折れて、その頭はどこにも見当たらないんだ。  うわぁ、気味悪いなあ…と思ったんですが、 よくよく考えればそんなこと思ってる場合じゃないですよ。  チラッと振り返れば猛烈な勢いで車は容赦なく突っ込んでくる。 「ひいいっ…なんまいだぶう! なんまいだぶう…!」  もう逃げ場はどこにもないんで、まさに最後の神頼みとばかりに、A君、なんだか不気味には感じたんですが、そのお地蔵様を必死に拝んだんです。
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