火車

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 まあ、それ以来、もう二度とあの赤い車の夢を見ることはなくなったんですがね、それから数日が過ぎたある日、ふと自分の通学用カバンに下げている御守りを見たA君は唖然としたそうです。  その御守りは小さな頃からよくお参りに行っている、近所のお寺でいただいた交通安全のものなんですがね、ビニール製のケースで覆われてて、その中に紙のお札と小さなお地蔵様の木像が入ってるんです。  でも、いつそんな風になってしまったのか、見ればそのお地蔵様の首がポキンと折れてるんですよ。もちろん今までそんなことなかったのに。  当然、A君、あの夢の中で見た〝首なし地蔵〟のことが頭を過ぎったんですね。  どうにも気になったんで、A君はまたインターネットで首なし地蔵について調べてみたんです。  そうしたら、〝首なし地蔵〟っていう名前からしてちょっと怖いですし、首から上がない姿をしていますから、現代人にとってはちょっと不気味なイメージがあると思うんですがね、実はそうじゃない。本当は怖いものじゃないんです。  むしろその逆で、お地蔵様ってのはご自分が身代わりになって、人間の苦しみを代わりに受け取ってくださる仏様で、首がないお地蔵様は首から上の病や怪我に御利益があるんですね。  それにそもそもお地蔵様は土地の守り神で、事故の多い場所に祀られたりと交通安全の仏様でもあるんです。  A君、あの赤い車に撥ねれても命が助かったのは、この御守りのお地蔵が身代わりになってくれたからじゃないか……と思ったんだそうです。  そして、あの赤い男の〝命拾いしたな〟という言葉を思い出すと、もしも地蔵様の御守りがなかったら、いったい自分はどうなっていたんだろう? と、今でも背筋に冷たいものを感じるそうですよ。                        (火車 了)
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