前編 ニャー

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前編 ニャー

     駅に着いた通勤電車が、会社帰りのサラリーマンたちを吐き出す。  くたびれたビジネススーツに包まれた僕も、そんな大勢の中の一人だった。  アパートまでは、駅から歩いて十五分。  一日の疲れが肉体だけでなく精神まで蝕んで、その足取りは重くなるのが常だったが……。  最近では違う。子供のように無邪気な、軽やかなステップになっていた。  部屋に帰れば、あの子が迎えてくれるのだから。  カンカンと足音が響く、金属製の階段。  それを三階まで上り、廊下の突き当たりにあるのが僕の部屋だ。  ガチャッとドアノブを回して、扉を開けながら一言。 「ただいま」  かつては誰もいない部屋に虚しく響くだけだった、帰宅の挨拶。  今では、きちんと反応が返ってくるようになっていた。 「ニャー」  白くて美しいあの子が、入ってすぐの場所にチョコンと座って、僕を迎えてくれるのだ。  その様子を目にした途端、僕の顔には自然と笑みが浮かび、一日の疲れも吹き飛んでしまう。  鞄を放り投げて、靴も乱暴に脱ぎ捨てて、僕はあの子に抱きついた。 「よしよし! 元気にしてたかい? 今日もたくさん可愛がってあげるからねー!」  早速モフモフして楽しむ僕。  もちろん、あの子も喜んで受け入れてくれる。 「ニャー。ニャー」  規則では禁止されているけれど、こっそり猫を飼い始めて、本当に良かったと思う。    
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