何も聞こえない夜をあなたに

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「ここはどこ?」  マキの咆哮にかき消されそうな細い声が腹の中から聞こえた。今までにはなかったことだ! 現実には不可能だが、飛び上がりそうな気持ちになる。驚かさないように落ち着いて慎重に声をかけた。 「どうしたんだい?」 「誰なの!?」  細長い方が話しているようだ。彼は語彙力が少なかった。懸命に紡がれる話を集めると、彼は私の知らない外の世界から延々と旅をしてここに辿り着いたようだった。 「帰りたいよ」 「すまないが、それは私にはどうすることもできない。だが心配することはない。私の中で守ってあげよう」 「僕はあなたの中にいるの?」 「そうだよ。さあ恐ろしいものは何も来ない。今は少し休むが良い」  その小さきものはさきよりは少し元気な声でありがとうと言った。  今まで周囲のものや私の中のものに声をかけて返事が返ってきたことはなかった。マキは時折話しかけてくることがある。だが彼女の言葉は複雑すぎて、勉強中の私には理解ができないこともあった。何とか言葉を返しても、彼女は私には答えずに去って行く。  でも今は意思の疎通ができるものがいる! 私はありもしない腕で自分の腹を抱きしめる一夜を過ごした。
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