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私は彼を楓と名付けた。マキが私の腹に詰めた時の彼の姿が、以前窓から見えた神々しくまばゆい朱色と同じだと思ったからだ。マキはよくビールを私の胸に入れては取り出したが、腹を触ることはなかった。腹の中の楓は私の生み出す空虚の中で沈んでいたが、一度だけ見た姿は今も私には色鮮やかで、時が経つほどに彼が美しいという思いは増した。
私は日々満足していた。話をすることができる相手がいるということは何においても素晴らしかった。
「おじさんの中にいると、夜に包まれているみたい」
楓は以前は拓けた場所で自分とよく似た仲間と暮らしていたという。そこでは世界を照らす日が昇り、楓は今は別れた頭部でその恵みを受けたそうだ。日が沈むと、楓は静かで冷たい土に抱かれ、ゆっくりと朝を待った。
おじさん、夜は昼よりもにぎやかな時があるんだよ。ごそごそと動くものが僕の頭をくすぐるんだ。ギリギリと鳴いて、仲間を呼び、皆で合唱してね。土の中でも色んなものが僕の横を通り過ぎていく。僕はぼんやりと体を伸ばしていたけれど、あれが幸せというものだったかなと思う。
時に頭部をなぶる強い風が吹いた。時に日とはまた違う恵みをもたらす雨が降った。日々自分が成長することが楽しかったと楓は言った。楓が私の中で大きくなるといい。私はただ純粋にそれを願った。
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