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楓は私の中で大人しく過ごしていたが、少しずつ口を聞かなくなった。元々たどたどしくしか会話ができなかったが、眠いのかうんとかへえとかしか言わないことが増えた。楓は光を浴びて成長すると言った。私の腹の中で夜だけを繰り返しているのでは大きくなれないのか。
落ち着かない日々を過ごしていると、マキが袋を手に帰ってきた。身支度をした後、私を開き、おもむろに楓を取り出した。楓は初めて見た時より少し鈍い色になった気がする。それでも楓をきちんと見ることができて嬉しいとその刹那に思った。突然のことに慌てた楓が声をあげる。
「おじさん助けて!」
久しぶりに聞く言葉がこんなものではあってほしくはなかった。腕や足のない私に何ができよう。守るという言葉は簡単に言えても、こんなにも簡単に破られてしまう。
マキは楓を半分に切ると、楓の太い方を手荒に私の腹に押し込んだ。分割された楓はどちらもただ助けてと懇願した。マキの手元に残った細い方の楓は細切れにされ、マキが連れ帰った材料と一緒に火にかけられた。
調理の後、マキはフライパンの中身を皿に盛り、黙って食べた。食べきれなかった分は覆いをされて、再び私の胸の方へ戻された。腹の方では先に私に戻された楓がさめざめと泣いていたが、胸の方の楓はもう何も語らなかった。
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