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半分になった楓はますます話さなくなった。楓を守ることのできなかった私にかけられる言葉はない。私の中に今までとは違う感情が芽生えた。愛おしいということ、愛おしいものと一緒なのに芯が冷えていくということ。私の体の中より寒いとはどういうことだろう。
それでもどうしても楓と話したくなって、罪をもつ身ながら声をかけた。
「楓、どうしている?」
返事がない。ますます不安が募る。
「……おじさん」
以前よりもずっとかすれた声が聞こえた。待ちわびた声だった。初めて楓の声が聞こえた時よりも心に刺さるものがある。
「……僕ね……」
休み休み楓が声をあげた時、突然私の腹が開けられた。
マキは楓を取り出し、睨みつけた。楓のつややかだった表面はぼこぼこになっていて、ぐっと干からびた体がそこにあった。
「傷んでるし」
マキは苦々しげに言うと、楓をゴミ箱に放り投げた。
それから数日、私は声を限りに楓を呼び続けたが、反応が返ってくることはなかった。虚しい波をどれほど泳ぎ続けただろう。ある朝、マキはゴミ箱のビニールを取り上げた。
「おじさん……」
楓の声が聞こえた気がした。幻聴かもしれなかった。
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