死神の仕事

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 「で、見事に彷徨ってる姿が見えるんだが。」  「そりゃな。自殺した魂は成仏すら難しいんだ。ほら行くぞ……レイは、あの人の遺体でも探してくれ。」  フラフラと木々の間を動く魂は、人の姿に見える。まだ若い女性だ。サッと腕を掴むと、驚いたようにこちらを見たのが分かった。  その目は「どうして自分が見えるのか」とでも言わんばかりだった。  「どうも、死神のアルベルト・フォン・タナトスと申します。お迎えにあがりました。」  淡々と発されたその言葉に、一気に安堵感溢れる表情になった女性の目から、静かに涙が溢れた。  「何か未練等ありませんか。貴女がまともな来世を希望したり、天国行きを望むことは不可能です。話したいことがあれば、どうぞ黄泉の国に繋がる入口へ行く前に、お話しください。」  女性はわずかに首を横に振り、こうなることは覚悟の上でしたから、と呟いて、ぽつぽつと話してくれた。  仕事でパワハラを受けていたこと、結婚した人もクズだったこと、親戚を誰も頼れなかったこと……こんな地獄の世界で生きるぐらいなら、地獄落ち覚悟で死んだほうがいいと思ったこと。  わずかに震える声で、全てを話してくれた。  「アル、遺体見つかったぞ。ほぼ白骨化していたから、木に印付けて匿名通報だけしておいた。自衛隊か警察が来るって言ってたから、もう大丈夫だろ。」  頷くと、女性を連れて、事務所へと戻っていった。
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