TracK1

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 お皿を片付け、歯を磨く。学校に行く準備は整った。いざ学校へ、と荷物に手をかけたとき、 「待って、恭也。お弁当と、仏壇。忘れてない?」 「あ、忘れてた」  ばあちゃんに言われて思い出す。  荷物はそのまま置き、バタバタと移動して、仏壇の前に座った。  仏壇にはいつも色鮮やかな花が左右の花瓶に飾られている。そしてその中には二枚の写真。そこに笑顔で写っているのは俺の両親だ。  物心つく前に死んだから、母さんの記憶はあんまりない。だけど少し前に死んだ親父のことはよく覚えている。  行ってきますの意を込め、リンを鳴らし、手を合わせる。これが毎日の日課になったのは三年前からだ。どんなに忙しくても、必ずやりなさいとばあちゃんに言われている。  ――母さん、親父。俺、軽音楽部作るよ。頑張るから。じゃあ、行ってきます。  簡単ではあるが、昨日の報告をして立ち上がる。  そしてばあちゃんが作った弁当をバッグに入れた。  今度こそ忘れたことはもうない。 「んじゃ、行ってきまーす」  落ち着いた家に低い声が響いた。
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