【完】雨はサヨナラを歌う

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 翌日は事務所を開けようと思っていたが、なんとなく思うところがあって、事務所の前に神川先生の墓まできた。天気は土砂降りでどう考えても墓参り日和ではない。そういえば先生がいなくなった日も雨が降っていたっけ。先生の墓に触ると冬の寒さと雨とで石が冷え切っている。この冷たい石の下に神川先生は眠っている。死者の居場所。  俺と九条は神川先生に付き合うことを報告しにきたのだ。小っ恥ずかしいけれど、ケジメとして。 「先生、俺達……付き合います」  そう俺が言って手を合わせると、冬なのにまるで春のような温かい風が一瞬吹いたような気がした。 「九条、今の……」 「ああ、先生だろうな……」 「……俺達が付き合うなんてな、先生が知ったら爆笑しそうだよな……」 「そうだな……」  俺たちは煙草を一本供えて墓を後にした。  さあ、仕事だ。 参考文献 朝里 樹 笠間書院 日本現代怪異辞典  豊島 泰国 原書房 日本呪術全書 小松 和彦 講談社学術文庫 憑霊信仰論 石川 淳ほか 筑摩書房 古事記日本霊異記風土記古代歌謡
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