【完】雨はサヨナラを歌う

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 某県某所。  まだ寒さの残る三月某日。俺は憑き物筋の案件を解決すべく、とある家に車で向かっていた。この家、T家とするが、その娘が憑霊状態になり暴れているらしい。事前の調査でT家が憑き物筋、しかも狐や長縄(蛇)ではなく珍しい怪猫の憑き物筋だということは判明しているが、娘の状態は実際に見てみないとわからない。 車の後部座席には師匠である神川先生が座り、運転は俺、そして助手席には同じく神川先生の弟子の九条が座っている。怨霊調伏に使用する道具一式があるため俺たちは基本的に車で現場まで向かう。 九条は口喧しく前回の仕事での自分の成果を自慢している。九条は俺より三つ年上の二十八歳だが俺の方が三年早く現場に出ているので、実務経験の年数は俺の方が長い。それなのに、ことあるごとに年上であることを主張してきて不愉快極まりない存在だ。 「そこで俺も踏ん張ったわけよ、んで調伏無事完了したわけ。大変だったんだから……あっ!」 「何だよ」 「さっきの角、右だったわ」  俺が道案内するからナビは使わなくていいと言った本人がこれだ。全くこいつはいつも調子に乗っていやがる。 「は?」
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