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『踏みつける秘書』
「私、試してみたかったんです」
「なにを言っている?」
「なんだか、人を踏みつけたくなくるときってあるじゃないですか」
「いや、ないな」
バスタブの横に全裸で寝転ぶ信彦を踏みつけているのは、秘書のキョウである。信彦を踏みつけるキョウはスーツ姿で、スカートのまま信彦を見下ろしている。
9月、タイル張りの床は体温を奪う。
「背中が冷たいんだが」
「はい」
「そろそろ満足したろう?」
「いえ、だめです。まだ何も分かりません」
「君は何が知りたい? そろそろ、君も脱げばいいじゃないか」
キョウは質問に答えず、信彦の腹部の上で足を上下させる。少しだけ体重を乗せてみるなどしているようだが、腹筋に力を入れている信彦は通常どおり会話ができた。
キョウは上下させていただけの足を、一旦10センチほど浮かしてから、踏み下ろす。
「んぐ」
思わず唸る信彦の眉間に2本ほど皺が入る。
「おい。もういいだろ? 君は何が知りたかったんだ? 自分がSかMか、判断したかったのか?」
キョウの足が止まる。
「いえ、たぶん、違うと思います」
「どうだろうな。実際、その下着の中は濡れているんじゃないのか?」
「ええ。まあ、可能性はあります」
「俺はね、裸になってまで何かを隠されるのが、好きじゃないんだよ」
「何も隠していません、私は」
乗せたままの足に体重がかかる。キョウはストッキングを履いたまま、一緒くたになっている親指と人差し指を信彦のみぞおちに這わせる。ぐにぐにと登るストッキングの指先は、単細胞生物に知能が埋め込まれたのではないかと疑うような、生々しい動きだ。
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