『踏みつける秘書』

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 夕刻、キョウはミスを詫びた。 「社長、申し訳ございません。A社の過去の資料に誤りがあって──私が目を通した時に気づけばよかったんです。私のミスです」 「気にしていない。前任者が資料の定期チェックを怠ったからだ。君はそれを引き継いだだけだろう?」 「はい。資料を作ったのは前任者ですが、私が丁寧に確認していれば済んだはずです」 「もういい。運転に集中させてくれ。俺はね、商談後の運転が好きなんだ。だから、ドライバーを雇わないし、君はそこに座ってる」  助手席に座るキョウは、膝下に置いてある鞄の方を見つめ何も喋らない。腿の上に置いた手の行き場はどこにも無く、時折顔を上げて、前方車両のナンバーを確認する以外にはすることがない。  社長室の秘書として部署移動してから、キョウは度々食事に誘われた。懐が傷つくことはなったが、味のしない料理を食べ、領収書を財布に入れるまでが、キョウにとっての業務だった。 「あの店、悪くなかったな」 「はい」 「このあと、ホテルに行かないか?」 「それは業務ですか? プライベートですか?」 「どっちでもいい」  本当にどちらでも良いのだろう。信彦は何も、理由も、意味も、考えていない。 「なら、一つお願いがあります。踏ませてくれませんか?」 「なんだ? それは」 「無理なら、結構です。個人的な問題なので」  怪訝な顔をしたが、踏まれることを承諾した信彦に断りを入れ、キョウは一旦席を立つ。  トイレの個室に入り、携帯を開く。キョウの前任者は資料をきちんと整えて退職していた。  そして、「もし何かあったら、私は大丈夫だから、いつでも連絡してください」と、プライベートの連絡先を教えてくれていた。 (お願い──いえ、すみません、どうか、電話に出て下さい──)  キョウの視線の端に、上を向く信彦の陰茎が映る。 「興奮してるんですか?」 「ああ」 「やめてくれませんか? 私は、ただ踏みたかっただけなんです」 「君は俺を踏みつけて、何かを確かめようとしている。ただな、俺が興奮するかどうかは、俺の中の話だ」  信彦の視線が、スカートの中を捉えていることにキョウは気づいていた。最初こそ腕を使って両目を隠してはいたものの、会話の最中に腕の隙間からチラチラと覗き始め、いつの間にか腕を外していた。
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