ストレスフリー

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 首相官邸の執務室では二人の男が対峙していた。 「首相、全ての国民の装着を確認しました。現在この国であのブレスレットの支配から逃れているのは、計画を知っている私共以外では生まれたばかりの赤子だけです」  政務官の報告に椅子に深く腰掛けた首相は満足そうに頷く。 「計画を立ち上げてからここまでこぎ着けるには長かったが、ばら撒いてしまえばあっという間だったな。 ……それで、経過は?」 「問題ありません。国民には何かに反発する意思も、それに思い至る思考も欠如してきています」 「うむ。では予定通り徐々に感度を上げていき、依存して手放せないようにしろ。そして一ヶ月には首相の任期を撤廃、一党制に移行する。 我らが全権力を握るのだ」 「歴史が変わりますね」  政務官の声は緊張と高揚から震えていた。 「それも国民納得の上でな ……これからは、我々の時代だ」  政務官は深く一礼して出て行く。  首相は立ち上がり、窓辺に立ち外の景色を見下ろした。 「怒りの感情を忘れた国民等、もはや奴隷も同然。これからこの国は我々の意のままだ」  抑えきれなかった笑い声が響いた。      
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