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その日の事務所は異様な静けさが漂っていた。
普段通りを装い業務をこなしながらも、皆、チラチラとある一点を伺っている。
視線の先には書類の確認をしている部長の原田がいた。
眉間に深い皺を寄せ、口をへの字に曲げ文字を追う。
そして少しでも不備を見つけようものなら、直ぐに担当者を呼び出し人間性を否定する勢いで罵倒する。機嫌が悪ければ些細な服装の乱れまで重箱の隅をつつくかのごとく叱責する。
何をそんなに怒る事があるのかというくらい、ピリピリした雰囲気をまとっている。それが部下達が知る原田だった。
その原田が、今日は朝から一度も怒鳴らない。更に驚くべき事に口元にはかすかな笑みさえ浮かんでいる。
今日に限って誰もが完璧な業務をしている訳では無い。むしろ、原田の様子に気を取られ誤変換した書類をそのまま渡してしまう者もいた。渡した後で怒鳴られると身構えたが、その時も「修正して持って来るように」と言うだけだった。
異常な原田の様子に事務所中が困惑していた。
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