星空の処刑人

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 そして土曜日の夜が来た。  死神の力で、K青年の命は、夜空を彩る一筋の流れ星となって消えた。  それは綺麗な流れ星だった。  彼女もそれを見た。  彼女が喫茶店の他にバイトをしている、夜の男性向けのバーの窓からだった。                ―――――  Kには、あの世に旅立つ前に、霊魂になったまま数日間この世に留まることが許された。  そんなルールがあることなど彼はまったく知らなかったけれど、それは嬉しい誤算だった。  当然、Kは彼女の様子を空から眺めに行った。  すると彼の目には、驚くべき光景が映った。  それまで本などというものに全く興味を示したことのないあの彼女が、本屋に入って、小説の棚の前で真剣に本を選んでいるのだ。  Kは狂喜した。奇跡だと思った。  流れ星という一瞬のスペクタクルで喜んでもらう以上のことが起きたのだと。  自分の想いや情熱が彼女にも伝わって、ついに同じ世界の人間になれたのだと、そう思った。  そんな彼の傍らに、いつの間にか死神がそっと寄り添った。 「さあ、お迎えです。あの世に旅立ちますよ」  死神は知っていたが、言えなかった。  彼女はあの夜、たしかにKの流れ星を見た。  そしてその時、ほとんど反射的にある願い事をしたのだ。 「あたしにつきまとうウザい男ども、まじで消えろ」  不思議な力で、それは見事に叶えられた。  そしてKはその存在だけでなく、彼女の記憶からも消え去ったのだ。  元々好奇心のある彼女は、それまで試したことのない本という世界に、純粋に触れてみたいとその日、初めて思った。  それまで彼女をそういった世界から遠ざけていた誰かが身近にいたような気がうっすらとしたし、それは文学論やら何やら、とにかく話がつまらなくて長い人だったような気がしたが、それは誰だったかはもう、彼女には思い出せなかった。  Kの魂は上機嫌のまま、ゆっくりと天界へと昇っていった。  その傍らで死神は、スターダスト・アンダーテイカーか、と小さく呟き、そして慌ててそれを打ち消すように頭を振った。 (完)
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