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死神は、夜の空を悠々と飛んでいた。
彼が青年Kに出会ったのは、少し前のことだった。
「どうか僕を、美しい流れ星にしてください。この命と引き換えに」
Kにそう頼まれた時、まあまあロマンチックな願いだと、死神は思ったものだった。
なのでまあ、じゃあその線でいきますか、ということになったのだった。
―――――
Kは、どこにでもいる悩める作家志望の青年だった。
いや、レベルとしては作家志望・志望とでも言ったほうがいいかもしれない。まったく上手く書けないことに、彼は悩んでいた。
たまに書く詩や短編を知人に見せても、百発百中で、相手の顔に愛想笑いが貼りついた。それはもう確実に。
しかしKは子供のころから読書が好きで、大学の文学部を出て、その後はバイト生活をしながら「創作」を目指し続けたのだった。
そして今や、若さは何の愛想もなく、本当にくたびれた明け方のコンビニ店員ほどの愛想もなしに、彼の元を去ろうとしていた。
29歳だった。
「死のう」と彼は呟いた。
晩年だ、まさに、と。
そんなKの思念が、ちょっと自意識に酔ったようなその顔面のイメージとともに、死神の処に届いたというわけだった。
―――――
「ああいいさ、僕は若くして死ぬ。さあ、殺してくれ」
どこか芝居臭さを感じるセリフを吐く彼に、死神は無言で頷いた。
Kのようなケースは昔からよくあるもので、死神サイドとしてはお得意様と言ってもよかった。
実際、彼のようなケースにはいろいろな良い点がある。
まず、どう考えてもおかしい出来事に対して、異常に物分かりが良い。
その証拠にほら、死神が彼の四畳半に立っているというのに、腰を抜かす様子もない。
フィクションの読みすぎというのも、時には役に立つものだ。
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