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加えて、なんと言ってもとにかく若い。
死神連中があの世に連れて行く人の平均年齢に比べて、悩める芸術家志望の皆さんの享年は悲しいかな、圧倒的に若い。
しかしそんなケースを担当できた死神にはラッキーなこと、活きのいい魂ということで、上司からとびきり良い評定がもらえるのだ。
そういうわけで今Kの目の前に立っている死神は、そんな死亡志願者にはいつも何かちょっとしたお礼としてプレゼントをあげることにしていた。
例えれば、献血に行った時のお菓子食べ放題とか、マンガ読み放題みたいなノリである。
死ぬ代わりに、何か欲しい特典はありますか、と尋ねた死神に、Kはこう言ったわけである。
流れ星にしてほしい、と。
「流れ星って、世の中の全員に喜んでもらえるものでしょ。少なくとも嫌いな人には会ったことないし」
と、Kはやけに饒舌に言った。
「やっぱり何でも、作り手の自己満足じゃなくてさ、受け手を悦ばせてなんぼだから……」
そんなKの話を無表情で聞き流しながら、死神は心の中で腑に落ちた。
彼は気づいたのだ。その流れ星を、きっと見てほしい人がいるのだと。
―――――
Kの日常を観察していた死神は、知っていた。
彼には、想いを寄せる女性がいたのだ。
それは、彼のバイト先の後輩だった。彼よりもいくつか若く、金色に染め上げたショートヘアの眩さに、Kの心はものの見事に打ち抜かれた。
彼らのバイト先は、良くも悪くもレトロな雰囲気ただよう喫茶店だった。
彼女の前で、Kは頼れる先輩を一生懸命に演じた。
その演技はきっと、小学校の文化祭でも笑われるんじゃないかくらいの酷いものだったかもしれないが、それでも彼は懸命だった。
おすすめの本もいくつか紹介したりした。
そんなKの気持ちなど知るよしもなく、彼女は店の裏で、無表情でタバコを吸い続けた。
―――――
「というわけで、30歳になる夜に、死ぬことにします。ご協力ひとつよろしく」
ある夜、アパートを訪れた死神にKはそう告げた。
死神は無言で頷いた。その日はもう、次の土曜日に迫っていた。
― 土曜日、夜空を見てみて。きっといいことがあるから。
そんなメッセージを、Kは数日前にすでに彼女に送っていた。
「君は僕を殺して、僕は夜空の流れ星になる。さしずめ君は、星空の処刑人(スターダスト・アンダーテイカー)といったとこだね」
Kはどこか満足げに死神に言った。
そういうセンスやぞ、読者がつかない理由、と死神は思ったが、口には出さなかった。
その時、Kの携帯が震えた。
彼女からの返信がようやく届いたのだった。
死神がいることも一瞬忘れ、青年は携帯をつかみとった。
メッセージ画面の向こう側の彼女は、Kの見たことのない上機嫌な人物だった。酒が入っているようだった。
― 夜空あ? よくわかんないけどわかったー
― そういえばKさんがこないだ送ってきたポエムさ、今友達みんなに見せちゃったwwごめんねww
「うん、死にます。この土曜日に」
だからそれはさっき聞いたよ、と死神は心の中で呟いた。
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