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 言ってしまってから、すぐにぼくは気づいた。自分がどんなひどいことを言ったかということに。 「あっ、違う……違うんだ」  あわてて弁解しようとした。  でも彼女の手は、ぼくの言いわけを聞こうとはしなかった。じりじりとあとじさった。  彼女はとてもショックを受け、悲しんでいる。  そんなふうに見えた。  ぼくはあわてふためき、「ごめん」とは言ったものの、弁解の言葉は「あの……あの……」としか出てこない。  ふいと、手は壁ぎわの小さな机のほうへ移動した。ボールペンを持ち、彼女のためにいつも用意してあるメモ用紙に、乱暴になにかを書いた。  そして、ほんの一秒ほどで書き終わったとたん、手は宙に消えてしまった。 「あっ、待って」  声をかけたときには、もう遅かった。  彼女が消えた空間や、その他部屋のなかを見まわしても、彼女の姿はもうどこにも見つからない。  ぼくは机に駆けより、ともかく彼女の書いたものを読むことにした。  メモ用紙に書かれていたのは、 『ごめんね』  の四文字。  それは泣いているかのように、くしゃくしゃに乱れた文字だった。
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