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 それからぼくたちは少しずつ親しくなっていった。  初めのうちは、大学の図書館でときおり会うだけだった。  ぼくが本をさがしていると、やはりひと気のないすみのほうで、手が現れて、読みたい本をおねだりする。  ぼくは本棚から本を取りだし、立ったまま、彼女のために、開いた本を支え続けるのだった。  打ち解けてくると、大学の構内をふたりで歩くようになった。  彼女が手まねと筆談で教えてくれたところによると、彼女の姿(手)が見える人は少ないのだそうだ。それでも、ぼくのように見える人もいるのだから、用心しなければならない。  いっしょに歩くとき、ぼくが肩から腰の下へとさげたショルダーバッグの口をあけておき、そのなかに彼女の手は隠れた。手首から根本のほうは実体がないのだが、それでもバッグの口は閉めないほうがよいらしかった。  大学の構内をゆっくりと歩き、構内にある小さな公園のベンチに腰をおろす。  バッグのなかに手を入れると、彼女の手に触れる。  ぼくたちは手をにぎり、しばらくすると、指と指をからめて、いわゆる恋人つなぎをした。そのまま、ただ黙って、初夏の風が木々の葉をそよがせるのを見ていた。
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