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 やがて彼女はぼくのアパートに来るようになった。鍵がなくても、スッと部屋のなかに現れることができるので、便利だ。  彼女は、ぼくがラーメン屋のアルバイトから帰る寸前に、部屋のなかに入って、明かりをつけて待っていてくれた。  疲れて帰ってきたときに、部屋に明かりがついていると、嬉しいものだ。ぼくを待っていてくれる人がいるということなのだから。  ぼくが部屋に入ると、彼女は小さな電気ケトルでお湯をわかし、紅茶を淹れてくれた。それから、棚にあるスナック菓子を勧めてくる。片手だから料理はできないし、果物の皮もむけないから、それが、彼女がぼくにしてくれるせいいっぱいのことだった。  夜はふたりでテレビや、ネットを通した定額見放題の映画を観た。  肩の凝らないバラエティ番組が彼女のお気に入りだった。MCがおもしろいことを言って、会場がわっとわき、ぼくも笑うとき、彼女もまた笑った。  五本の指先を立てて、冬はこたつとして使うローテーブルの天板を、バタバタと打ちつける。それが、彼女が「笑っている」意思表示なのだった。
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