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秋
ぼくは彼女のことが好きだった。
彼女がそばにいてくれるだけで、心が満たされた。疲れた心が癒された。
ぼくのほうも、彼女のことを大切にしてあげたいと思った。
そう思った。
本当にそう思った。
思ったんだ……。
その気持ちに嘘はない。
なのに、なぜだか、ぼくはときたまイライラするようになった。
原因はわかっていた。でも、考えないようにした。
彼女が筆談で、
――なにか、嫌なことでもあった?
と訊いてきても、
「ううん、別に」
と、できるだけの笑顔をつくって、答えたものだ。
そうして、あの晩を迎える。
秋も深まった週末。
その日も、アルバイトがあって、疲れて帰った。彼女の淹れてくれた紅茶を飲んだ。晩ごはんは、アルバイト先のまかないですませていた。シャワーを浴び、いつものようにふたりで映画を観た。サスペンスものの洋画だった。
恋愛要素の少ない映画を選んだつもりだったけど、それはロマンチックサスペンスと言われるたぐいの映画だった。
裕福な女主人を殺そうとたくらむ青年が、手始めに彼女と親しくなっていく。ふたりはハグして、熱いキスを交わす。濃厚なキスシーンが続いたあと、ふたりはベッドにもつれこんでいく。
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