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 少しくらいならいいかと思ったけど、ここまでくると、もういけない。 「別のにしよう」  ぼくは一方的にそう告げて、動画を切りかえようとした。  彼女にそれをさえぎられた。  リモコンにのばしかけたぼくの手の甲に、彼女の手がかぶさって、動きを阻止する。  彼女の手が、人差し指を立てて、横にふった。 (ダメよ)  という合図だ。 「だって……」  苦笑いしながら、もう一度リモコンを手に取ろうとするのを、もう一度彼女の手にさえぎられた。  テレビ画面では、青年と女主人が抱き合ってベッドに寝ころび、荒い息遣いのなかで、互いの身体をまさぐりあう。そのうち、青年の手が女主人のスカートをまくりあげ、下着に指をかける。  一方、彼女の手は、リモコンに向かったぼくの手の甲から、指先で、つつつ、と腕をつたって顔のほうへ登ってくる。二の腕をつたい、肩をつたい、少し跳んで、ぼくのほほにふれてきた。そこから横へ移動して、人差し指と中指の二本が、ぼくの唇にふれた。  やわらかな指先なのに、唇にピクッと電流が走ったような気がした。  彼女の指先が、ぼくの唇を、右から左へと、軽くなぞっていく。くすぐったいような快感。左端に達すると、また右端へとなぞっていく。右へ、左へ、と二往復した。それから指先で、ぼくの唇を割った。冷たい指が口のなかに入ってきて、舌の先をくすぐるように動いた。  初めてのことに、ぼくはどうしたらいいかわからず、ただ気持ちよくて、ハァ、ハァ、と息をつき、彼女の手にまかせてじっとしていた。
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