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 彼女の指先はぼくの舌をくすぐり、歯ぐきの裏をくすぐった。口のなか全体が、甘痒いような、麻酔をかけられたような、ビミョーな感じになった。  テレビ画面のなかでは、青年と女主人が、半裸の格好で、あえぎながら激しくセックスしている。  彼女の指が、ぼくの口から出た。  先ほど登ってきたのとは逆に、つつつ、と指先でつたいながら、胸、腹をおりていく。  やがて、彼女の手がぼくの下腹部に到達した。  ぼくのそこは映画の内容と、彼女から受けた「キス」によってすっかり興奮していた。硬く、大きくなったモノが、ズボンの股間を押し上げている。  二度、三度と彼女の手が、ぼくの股間を、縦長の楕円を描くように撫でまわした。  それから……。  ズボンのジッパーをおろした。 「やめろっ」  ぼくは突然叫んで、両手で彼女の手を押しのけた。 「やめろ。こういうのは、ダメだ。ダメだよ」  そのときのぼくの気持ちを正確に説明するのはむつかしい。  少なくとも、好きな女の子に、商売女のマネはさせられない、というのはあった。それは愛ではなくて性だ、という思いがあった。好きあっているふたりが、互いを求めてセックスするのはかまわない。でも、一方的に「ヌイてもらう」のは違う気がした。  そういう思いを彼女につたえたかった。  なのに、とまどったように宙に浮いている彼女の手に向かって、ぼくがなにを言ったかというと、 「なんだよ、手のくせに」  という暴言だったのだ。
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