プロローグ

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

プロローグ

 ぼくの恋人は「手」だった。  正確に言えば、女の子の右手。  歳は訊かなかったけど、たぶん、二十歳のぼくと同じくらいじゃないだろうか。  彼女の手は、特別な「シラウオノヨウナ手」ではなく、ごく普通の、女の子の手だった。爪はマニキュアもせず、健康的なピンク色。指の関節はごく実用的にとがっている。手の甲には血管が走り、手首は細め。  ただ、手首から腕のほうへは五センチくらいしかなく、その先は宙に溶けこむように消えている。そして、手だけが、地上数十センチのところに浮いている。  簡単に言うと、透明人間の女の子の身体のうち、右手だけが見えている、という感じだった。  ただし、透明人間と違うのは、手首からつけ根のほう、本来なら腕とか胴体とかがある空間は、単に見えないだけでなく、手をのばしてさぐってみても、実体はなにもない、ということだった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!