1-4 真夏の雪降る、裏側の世界

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・イザホのメモ(15ページ更新) 【https://estar.jp/novels/25875424/viewer?page=38&preview=1】  左腕のスマホの紋章に触れて、半透明のモニターを呼び出す。そこに表示されていた時間は、20時40分。さっきからほとんど時間が立っていない……それなら、どうして空は昼模様なんだろう? 「ねえ、スマホの電波……全然届いていないよ」  後ろからマウがスマホのモニターをのぞいてつぶやいた。モニターの右上を見てみると、確かに圏外と表示されている。 「なんだか、あの紋章に触れたせいで“裏側の世界”ってやつに連れて行かれちゃったみたいだね」  マウの言葉を聞いて、喫茶店の店長さんの言葉を思い出した。  真夜中の森を歩くと、羊の頭を持った悪魔“バフォメット”に襲われる。  もしも捕まってしまうと、体の部位をひとつ切り落とされ、  裏側の世界に連れて行かれる…… 「あ……ごめん、不謹慎だった?」  頭のシルクハットを取って謝るマウに対して、ワタシは右手でマウのおでこをなでた。別に平気だよ。それに、不謹慎なのはむしろワタシなのかもしれない。  恐怖とか焦りとか怒りとか、そんな感情よりも、期待という文字が胸の中で躍っているから。  ワタシは立ち上がって背中の雪を落とすと、体を後ろの小さな小屋に向ける。 「イザホ? あの建物に行くの?」  心配そうにワタシを見上げるマウに顔を向けて、笑顔でうなずく。一緒に行こう、マウ。 「……わかったよ。あの小屋に、ここから出てくる手がかりがあるかもしれないからね」  雪の上を歩くのは、初めてだった。  雪を踏みしめる1歩1歩の音が、新鮮だった。
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