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イザホのメモ(10ページ更新)
【https://estar.jp/novels/25875424/viewer?page=35&preview=1】
「……裏側の世界に連れて行かれる?」
マウはまばたきを繰り返しながら店長さんに向かって首をかしげる。
ワタシたちが鳥羽差市に来る前、10年前の事件のことはお母さまから聞かされていた。でも、異世界に連れて行かれるなんて聞いたことがない。
「あくまでも都市伝説だ。5人の被害者がそれぞれの部位だけを残して消えたことから広まったんだろう」
右手を頭から離す店長さんに、マウはさらに質問を続ける。
「それでも、どうして裏側の世界に連れて行かれるって話になるの」
「それはだな……」
店長さんは再び右手を頭に当て、しばらく黙って……
目を見開き、口を開けた。
「すまん、忘れた」
…… 「……」
……イスから落ちそうになった。
さっきまで乗っていたカレーライスは、今はもう皿の上にはなかった。
クロワッサンを食べ終えたマウと同じタイミングで、紙ナフキンで口を拭く。
「ふきふき……ねえイザホ、食後のコーヒーでも頼んでみる?」
コーヒー? コーヒーって自動販売機で買える飲み物だよね……?
「イザホってさ、缶コーヒーしか飲んだことないでしょ? せっかく喫茶店に来たから、本格的なコーヒーを飲むのも新しい経験になると思って」
そういえば、初めて缶コーヒーを飲んだ時にマウが本格的なコーヒーのことを言っていたような気がする。それなら、ちょっと試してみようかな。
「と、言うわけで、コーヒーをふたつ……アイスで頼むよ」
マウが注文すると、店長さんはうなずいた……と思ったら、どこからか着信音のメロディが鳴った。
ワタシのスマホの紋章じゃないけど……
「あ、ああ……すまない、私のスマホの紋章だ」
店長さんは「戻ってきたらすぐに作る」と言い残して、スマホの紋章が埋め込まれた左手を耳に当てながら近くの扉に向かった。
誰かから電話がかかってきたのかな?
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