1-3 バフォメットの都市伝説

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・イザホのメモ(10ページ更新) 【https://estar.jp/novels/25875424/viewer?page=36&preview=1】  店長さんは、なかなか帰ってこなかった。  左の手のひらを見ても、スマホの紋章が緑色に光っているだけ。フジマルさんからの連絡もまだ帰ってこない。  待っている間、どうしようかとマウに目線を向けてみた。 「ねえイザホ、なんか面白そうな絵があるよ」  マウが近くの壁を指さしたと思うと、ぴょんとイスから飛び降りた。  その壁には、絵画が入った額縁が飾られていた。ワタシも近づいてみてみようかな。  右に向いた、ヤギの頭をした絵……鉛筆で描かれたと思われる、背景のないその絵画をよく見てみると、消しゴムで消した痕が残っている。 「この痕、なんだか羊の羊毛みたいだよね」  隣でマウは、面白がるように鼻をプスプスと動かしていた。 「そういえばイザホ、知ってる? バフォメット……その名前の由来」  バフォメットの……由来?  バフォメットって、羊の悪魔だから……あれ? 改めて考えてみると、()()()()()()が違和感を感じた。 「実はね、バフォメットって羊じゃなくてヤギの頭なんだよ。ウワサ話が広まるにつれて、羊とヤギが混ざっちゃったみたいだって、都市伝説サイトで見たことあるよ」  そうなんだ……  たしかに、今までは違和感を感じなかったけど、よくよく考えてみるとヤギの悪魔であると聞いたから、それを思い出すと違和感を感じたんだ。 「それにしても……タイトルも変わっているよなぁ……【  章紋のイガチマ  】。この“章紋”ってさ、もしかして“紋章”かな? どうして逆さまにしているんだろう……」  マウと横に並んで、見たことのない不思議なタイトルを見る……  ……お屋敷の中だけだったら、こんな絵があったなんてわからなかったかも。 「ねえイザホ……ボクたちの新生活の場所をここにして、やっぱり正解だったみたいだね」  マウの言葉に、うなずく。  ワタシたちがここに引っ越すことになったきっかけは、お母さまの余命宣告。この世から立ち去る日がそう遠くないと知ったお母さまは、その後のワタシたちのことを心配していた。  だから、お母さまに心配をかけないように、ワタシたちはお母さまのお屋敷から離れて暮らすことにした。お母さまの最後の日が近づいた時、自立したワタシたちの姿をお母さまに見せることを約束して。  その自立先を、この鳥羽差市に選んだ理由……それは、10年前の事件が起きた街だから。あの10年前の事件のことを少しでも知ることが、ワタシにとっての自立になるから……  コンコン 「ん?」  玄関の扉からノックの音が聞こえてきて、マウが振り返った。  ワタシも振り返ると、カラーンと短い鈴の音とともに扉が少しだけ開かれた。  その隙間から、折りたたんだ画用紙を持った左手が現れた。 「……」  左手はなにも言わず、手に持つ画用紙を強調するように上下に動かしている。 「……ねえイザホ、あの人、どうして入らないと思う? ボクは恥ずかしがって店に入ってこれないとは思わないけど」  マウは細めた目を玄関の左手に向けながらワタシに意見を求めた。  どうだろう……あの手の動かし方、なんだか画用紙を見てほしいって言っているみたい……  マウと顔を合わせて、うなずく。あの画用紙を手にしてみよう。
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