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・イザホのメモ(29ページ更新)
【https://estar.jp/novels/25875424/viewer?page=51&preview=1】
喫茶店セイラムから立ち去ったワタシとマウは、フジマルさんが用意してくれた自動運転の車に乗って、引っ越し先のマンションに向かっている。
窓の外の森を眺めながら、この鳥羽差市に二人暮らしをするために訪れた理由を思い出す。
ワタシたちがここに引っ越すことになったきっかけは、お母さまの余命宣告。その自立先を、この鳥羽差市に選んだ理由……それは、10年前の事件が起きた街だから。
ワタシは時々、自分の存在がわからなくなる時がある。
お母さまのひとり娘の代わりとして作られた死体なのか、それとも被害者6人の意思を受け継いだ存在なのか。それとも被害者たちとは関係なく生きるべき存在なのか。
その答えを知るには、10年前の事件について知る必要がある。
被害者たちのことを知って、今のワタシとの違いを知る。そうすることで、ワタシの存在がはっきりするような気がする。
だから、ここに引っ越すことにした。マウとふたり暮らしをすることにした。
「ねえイザホ、喫茶店【セイラム】の店長さん……忘れ物がすごかったよね」
助手席に腰掛けるマウが、機嫌がよさそうに鼻を動かしながらワタシの顔を見つめた。
「だからなのかな、ボクもすっかり忘れていたよ。コーヒーを注文したのに喫茶店のコーヒーを飲めなかったことを」
自動運転の車は、今、森を抜けた。
――ACT1 END――
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