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侯爵家の屋敷は、もうひとつ丘を越えたところに建っていた。
1600年代に建設されたどっしりとした城塞で、昔は外部からの敵襲があった時は、村に住む領民もこの城の中に逃げ込んで難を逃れ、また領主と共に戦ったという。
現在に至るまでに何度か改修がされているが、基本的な外観はさほど変わっていないと言われている。
「お屋敷には電気や水道は通っていますが、王宮と比べると不便に感じるかもしれません」
ジョフの口調はクレアと比べるとかなり柔らかかった。
車から降ろされたカロルは、玄関の横の応接室に通された。
侯爵の屋敷は、内装も素晴らしかった。ワインレッドの絨毯と重厚な木製の家具。天井から下がる豪華なシャンデリアに、壁に掛けられた数々の絵画…。
だが、先程のクレアの言葉通りなのか、応接間にはお茶も運ばれてこなかった。
別にそれは構わない。しかし、夕方まで待たなければならないなら、トイレも借りることになるだろうし、腹も減るだろう。今はまだ大丈夫だが。
それに、予定通りの時刻に帰れないことを、上司に連絡する必要もあった。スマホはここでも繋がらないので、この屋敷の電話を借りなければいけない。
そんなことを考えていると、ドアがノックされて、作業服姿のままのクレアが入ってきた。
「侯爵がお帰りになるまでかなりの時間がありますので、お屋敷の周辺をご案内します」
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