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背中に衝撃を感じ、ぎゅっと閉じていた目を開く。
バイザー越しに、灰白色に濁った空が見え、煤のようにドス黒く不気味な雲が漂う。
【ポータル】を通り抜けた俺は仰向けに倒れていた。
装着したヘルメット――そのバイザーに備わるヘッドマウントディスプレイで酸素濃度などの環境状態を確認すると、俺がいた地球とほとんど変わらない。気温は少し肌寒いくらいだ。
「――成功、した?」
身を起こして辺りを見回す。
そこは一言で言えば荒野だった。
見渡す限り、大地は砂が占めている。所々に岩もあるのがわかるが、植物は見当たらない。砂の感触は砂漠というより、海岸にあるような湿り気を帯びた感じだ。雨でも降ったのか……?
「どっこいせ」
立ち上がって目を細める。遠くに何か物体が見えたので、ディスプレイを操作してその物体をマーク。望遠機能で拡大。
――街だ。向かって東側に、イタリアのミラノやナポリのビル群を思わせる街があるのが確認できた。
「……?」
ヘッドマウントディスプレイの拡大を解いて、改めて荒野を眺めた俺は、荒野全体に渡って模様が形成されていることに妙な違和感を覚えた。
東に見える街から俺がいる場所まで、まるで水面に生じた波紋のように、弧を描く模様が幾重にも連なって広がっているのだ。
砂地に波や風があれば、模様ができるのは当然だが、ここに海は無いし、風もほとんど無い。けどよく見ると、模様は砂が大きく隆起して波打つことで形成されている。これはかなり強い力――突風でも吹かない限り生じないレベルだ。
「――まぁいいか!」
気を取り直すことにした。細かいことは後で! 今は無事に生きてることを喜ぼう。
と、俺は自分のすぐ横に横たわるメイド服姿の美少女に目をやる。
十代前半と見える彼女は仰向けに横たわり、眠るように目を閉じている。完璧に整った目鼻立ち、白い肌、本能的に守りたくなるような華奢な体躯。こんなに可愛い子見たことない。
腕の部分を見ない限り、この美少女がロボットだなんて誰も気づかないだろう。
半袖のメイド衣装――その袖から先に覗く彼女の腕は、美しい銀色をした機械の腕。ロマンに溢れるイタリア人の科学者が血眼でこのロボットを作ったらしいが、そのこだわり抜いたデザインは違和感を払拭している。
「どこかにいるかもしれない神様、感謝します」
俺は拝むように手を擦り合わせ、微動だにしない少女の、控えめに隆起した二つの丘を見つめる。確かここが起動スイッチだったはず……。
そうして呼吸を整え、己の両手をそっと、その柔らかいお胸へと着陸させた。マンマミーア……。
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