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「どちらまでお送りしましょうか?」
「お手数ですが、小岩の方までお願いできますか?」
家まで送りましょうか、と言わないのがまたすごくポイント高いというか、紳士だと思う。『お客様』には自宅を教えたくないホステスは多いが、寿里は普通に家に送って欲しいので自宅を告げた。
「では、小岩に向いますね」
帰り道も取り留めのない話をしていたらすぐに着いてしまった。ボロいアパート前にかっこいい車が止まるという、なんとも妙な絵面。東京は物価も家賃も高過ぎて、リアル貧乏OLはドラマの主人公のような生活はできない。
――今夜、あっという間だったな。嫌なことをやると物凄く時間の流れが遅いのに、猛スピードで終わってしまった。
名残惜しくもう少し話していたいなという寿里の気持ちは一人でに歩き出してしまい、
「お茶、飲まれていきますか?」
と口走っていた。わずかに発生した間。
「そういうのは……勘違いしてしまいます」
工藤は笑う、困惑をたっぷりと混ぜて。
「悪いコトまで、教えてしまいたくなります」
――ギャーーーーー!
自身の発言のまずさを自覚し、寿里の体はかーっと耳まで紅潮していく。違うんですと必死に手を振る。
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