side Butterfly

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JRの改札前まで送ってもらったのだが、寿里は工藤のコートの裾を掴んだ……咄嗟に掴んでいた。 「あの……っ! やっぱり少し酔ったかもしれないです……」 全然、1ミリも酔ってなんかないくせに。 「風にあたりますか?」 ――きっと工藤さんならそう言って酔い覚ましに付き合ってくれるって打算含みで、我ながらずるい。 工藤は東京駅を抜けて行幸通りを往復するのはどうかと提案する。行幸通りはベンチも設置されていているし赤煉瓦駅舎も見れて雰囲気もいい、が。 「もう一本あっちの道がいいです!」 どうしても人目が気になってしまい、やや暗い方の道を選んだ。自販機で買った水を手に、ふたりでゆっくり歩く。 「今日は、営業の人たちを止めてくださってありがとうございました!」 「営業部はノリが異世界なので。あ……余計なお世話でしたか?」 「まさか! オフの日は飲まないように心がけているので本当にありがたかったです……!」 「そうですよね。僕も藤枝さんの肝臓が心配でした」 彼ならきっと部下が危ない場面を見たら誰であろうと動くのだろう。でも今夜のは、寿里が毎夜浴びるように酒を飲んでいると知っているから止めてくれた、と勝手ながら思うことにした。 「このお水、美味しいですね〜!」 「ただの自販機の水ですよ」 「なんかこう、からだの中に染み渡る優しさがあるというか?」 「ふふ。褒め上手ですね」 自販機の水でも、寒くても、一緒にいるのが彼なら楽しい。たったの数分でも、取り留めのない話でも、嬉しくて特別。 あっという間に往復してしまい、元の改札に戻る。 「私、これからも頑張りますね!」 ――いついかなる時も、工藤さんの隣にいて笑われない女になります。 「では、お先に失礼しますっ!」 ――だから。 私のこと見てくれませんか? * 翌月曜日。寿里はヘアメイクに気合をいれていた。 肌は薄づきだけど艶があるように。眉メイクをしっかりすると垢抜け度が爆上がりするとプロから習ってから一番気合を入れてるパーツだ。根本から持ち上げたまつげにセパレートマスカラを軽く塗り、くちびるにはピンクベージュのリップをオン。髪の毛はふわっと。華やかでタイトめなオフィスカジュアルを見にまとい、テンションの上がる靴を履く。 店に向かうのではない。会社に行くのだ。 『女捨ててる地味OL』の衣は、もう脱ぐ! 目立たないようひっそりするのではなく、背筋を伸ばして堂々と歩く! 「あんな子、このフロアにいたか?」 「誰だあの子?」 フロアに着きエレベーターを降りたあたりから、そんな声がちらほら聞こえ始めていた。
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